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「意思決定支援」は理念ではなく実装の問題である—又村あおい氏 講演会(2026/3/28@ウェルとばた)参加レポート

  • 3 日前
  • 読了時間: 6分

2026年3月28日(土)、北九州市ウェルとばたで開催された、又村あおい氏(全国手をつなぐ育成会連合会 常務理事)による講演会「知的障害と意思決定支援」に参加しました。 会場には、家族、支援者、行政職員、教育関係者など、多様な立場の方々が集まり、北九州として「意思決定支援」をどう実装していくのかを考える貴重な機会となりました。

 

冒頭、北九州市の担当課長が次のように挨拶されました。

「現状では、当事者の意向よりも、家族や支援者の意向が優先されていないか」

この言葉は、講演全体の核心を象徴していたように思います。 意思決定支援は、制度や理念の話ではなく、“本人の人生を本人が選べるようにする”という極めて実践的なテーマだからです。

 

1.意思決定支援は「権利」であり、現場の必須要素です

又村氏はまず、意思決定支援が国際条約・国内法で明確に位置づけられていることを示されました。

障害者権利条約第12条では、

「障害者が法的能力を行使するために必要な支援を利用する機会を提供する」

と規定されています。

また、改正障害者基本法第3条では、

「どこで誰と生活するかについての選択の機会が確保される」

と明記されています。

つまり意思決定支援は、 “あったら良い支援”ではなく、“提供されるべき権利”です。

しかし、理念が明確になればなるほど、現場は混乱する可能性があります。 私自身も講演を聴きながら、次のような問題意識を強く持ちました。

  • 理念や理屈は心情的に理解できるが、現場では混乱が起きるだろう

  • 意思決定支援を「考慮した」「実現した」というプロセス自体が成果として評価されるべき

  • 行政の評価基準として位置づけられれば、事業所の動機づけになる

  • 本当に社会福祉をめざす事業体にとっては、理念を実装する強い後押しになる

理念と現場のギャップを埋めるためには、制度的な裏付けだけでなく、実践の積み重ねが不可欠だと感じました。

 

2.意思決定支援の本質は「プロセスを支えること」です

又村氏は、意思決定のプロセスを次の3つに整理されていました。

  1. 決定の基礎となる体験・経験

  2. 必要な情報の入手・理解・比較

  3. 意思の表出と実行

又村氏は、次のように述べています。

「知的・発達障害のある人は、この流れの一つ一つに支援を要する可能性が高い」

これは非常に重要な視点です。 私たちはつい「本人が決められるかどうか」だけに注目しがちですが、 決めるための“前提条件”が整っていなければ、誰だって決められません。

  • 体験したことがない場所は選べない

  • 情報が難しすぎれば理解できない

  • 意思表出の方法が合っていなければ伝わらない

これは障害の有無に関係なく、誰にでも当てはまることです。

 

3.「混ぜるな危険」——家族の心配と本人の意思を分ける

講演の中で特に印象的だったのが、「混ぜるな危険」という主張でした。

【家族の心配と本人の意思】 【支援者の懸念と本人の意思】 これらを混ぜて語ってしまうことが危険である。

支援現場では、家族の心配が「本人の不安」として扱われたり、 支援者の懸念が「本人の希望」と混同されたりすることがよくあります。

しかし、 “本人の意思”と“周囲の意見”は必ず分けて扱う必要があります。

これは、意思決定支援の質を左右する極めて重要なポイントです。

 

4.愚行権とリスク——どこまで許容するのか

今回の講演で「愚行権」という言葉を初めて知りました。

愚行権とは、 “他者に迷惑をかけない範囲で、本人が失敗する自由” のことです。

又村氏は次のような具体例を紹介しました。

「ある利用者が、お気に入りのアイドルの総選挙に年金と工賃を全額投入しようとする」

これをどう捉えるかは簡単ではありません。 しかし、又村氏は次のように強調されました。

「止めざるを得ないときもあるが、支援者の価値観が混入することを自覚する必要がある」

つまり、 “危険だから止める”と“自分の価値観で止める”は全く違う ということです。

 

5.ABAと行動的QOLは、意思決定支援の実践に貢献できるのではないか

私は、今回の講演を聴きながら、ABA(応用行動分析)が意思決定支援において大きく貢献できると改めて感じました。

ABAは、

  • 行動の機能を分析する

  • 環境調整を行う

  • 代替行動を教える という科学的アプローチを持っています。

意思決定支援においても、 「意思表出の手段を増やす」「選択肢を理解しやすくする」「選ぶ経験を積む」 といった支援は、ABAの枠組みと非常に相性が良いといえます。

さらに、故望月昭氏の「行動的QOL」の概念は、意思決定支援の実践において極めて有用です。

行動的QOLとは、

「正の強化を受ける選択肢が拡大している状態」

というシンプルな定義ですが、 これは意思決定支援の目的そのものと重なります。

  • 選べる選択肢が増える

  • 選んだ結果が良い経験につながる

  • その積み重ねがQOLの向上につながる

この考え方は、重度の障害がある方の意思決定支援においても非常に実践的です。

 

6.本人意思決定と共同意思決定(代理意思決定)

意思決定支援には2つのステージがあります。

1:本人意思決定

本人が自分で決めるための支援。

2:共同意思決定(代理意思決定)

本人の意思を最大限尊重しつつ、家族・支援者が一緒に決める。

又村氏は次のように説明しました。

「1の面積を増やすのが意思決定支援の目的」

「面積のラインを上げていくのがエンパワーメント」

つまり、 本人が自分で決められる領域(1)を増やすことがゴールです。

 

7.「説得」と「納得」は違います

又村氏は、意思決定支援の落とし穴として次の点を挙げられました。

「説得してでも決めてもらう」というメンタリティになりがち 「納得しているように見えて、実は“諦め”であることも」

これは支援現場で非常に起こりやすいことです。 意思決定支援においては、 “時間”という概念が重要だと強調されていました。

  • すぐに決めなくてよい

  • 一度決めても、やり直してよい

  • 試してみて、また考え直してよい

この「緩やかな自己決定」の考え方は、北九州の支援現場でも大きなヒントになると感じました。

 

8.北九州で意思決定支援をどう実装するか

今回の講演を通して、北九州として取り組むべき方向性が見えてきました。

① 本人の体験機会を増やす

 選べるためには、まず体験が必要です。

 幼児期・学童期から始めるべきです。

② 情報提供の工夫

 写真・動画・絵カード・実物など、理解しやすい形で。

 これもツールの使い方は、支援が必要で幼児期・学童期から始めるべきだと思いました。

③ 本人の意思と周囲の意見を分ける

 「混ぜるな危険」を徹底する。

④ チームで支える

 1対1ではなく、複数の視点で意思決定を支える。

⑤ “やり直し”を許容する文化

 失敗も含めて経験として扱う。

 これらは、北九州が目指す「地域共生社会」の実現にも直結します。

 

9.おわりに

今回の講演は、意思決定支援を「制度」や「理念」ではなく、 “人の生き方そのものに関わる支援”として捉え直す機会となりました。

重度の障害があっても、 言葉で伝えられなくても、 必ず「意思」や「気持ち」があります。

その意思をどう引き出し、どう支え、どう実現していくか。 そのために、支援者・家族・行政がどう協働していくか。

北九州でこのテーマに取り組む意味は大きいと感じています。

今回の学びを、日々の支援や地域づくりに確実につなげていきたいと思います。

 
 
 

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