眞邉一近先生の【学習心理学 第1回】を聴講して なぜ私たちは「慣れる」のか?「馴化」と「鋭敏化」の仕組みから日常生活・発達・臨床まで
日常の中で、こんな経験はありませんか? 時計の針の音が最初は気になっていたのに、いつの間にか聞こえなくなった。 逆に、夜中に一度気になり始めた微かな音が、どんどん大きく聞こえて眠れなくなった。 お化け屋敷に入った後、友達に肩を叩かれただけで飛び上がるほど驚いてしまった。 これらはすべて、私たちの脳と神経系が持つ最も基本的な「学習(Learning)」のプロセスに関わっています。心理学や行動科学では、これを「馴化(じゅんか / Habituation)」と「鋭敏化(えいびんか / Sensitization)」と呼びます。 この記事では、大学の心理学講座や神経科学の講義ノートのレベルの内容を、ブログ読者の皆様に向けて分かりやすく徹底的に解説します。アメフラシやラットの実験から、赤ちゃんの言語獲得、さらには嘘発見器やASD(自閉スペクトラム症)の特性まで、豊富な具体例とともに「慣れ」の科学を探っていきましょう! 1. そもそも心理学における「学習」とは? 「学習」と聞くと、学校で教科書を開いて勉強することや、英単語を覚えることを想像するかもしれません


Alan Lincoln(2026)のレビュー論文 “Uncertainty reduction as a candidate primary reinforcer: an evolutionary and neural account” Neuroscience and Brain Research誌
本論文は、「不確実性が減ること」そのものが、人間にとって食物や水などと同様の一次性強化子(primary reinforcer)の候補ではないかという仮説を、行動分析学・進化神経科学・予測符号化・自由エネルギー原理を統合して論じたレビューです。著者自身は、現時点で一次性強化子であることが確立されたとはせず、検証可能な仮説として提示しています。 論文概要:不確実性の低減は一次性強化子となり得るか 1.中心的な主張 本論文の中心仮説は、「分からない状態から分かる状態になること」、すなわち予測的不確実性(predictive uncertainty)の低減自体が強化機能をもつというものです。 通常、一次性強化子とは、食物、水、温かさ、性的接触、痛みからの解放など、学習によって価値を獲得するのではなく、生得的・生物学的基盤によって行動を強化する事象をいう。著者は、不確実性の低減についても、①機能的基準、②発達的基準、③生理学的基盤、④系統発生的基準、という4つの観点から一次性強化子の条件を検討しています。 たとえば、「何が起こるか分からない」という状態で


長崎から広がる支援の輪児童発達支援センター「げんき」主催研修会と、平和について考えた長崎の旅
9月4日(金)、長崎市役所で開催された「令和8年度 地域研修会~地域で育む こどもの力~」で講師を務めました。 翌日は長崎の街を歩き、平和公園や長崎原爆資料館を訪ねました。 「子どもたちの未来を支える」ということと、「平和な社会をつくる」ということ。 一見すると別のテーマのようですが、今回の長崎では、この二つがどこかでつながっているように感じました。 子どもたちの未来を、地域でともに育む 昨年度に引き続き、今年度も学校法人岩口学園 児童発達支援センターげんき様(センター長:中村憲昭様)からお声がけいただき、長崎市障害児支援体制強化事業費補助金事業の第2回地域研修会で講師を務めました。 会場は長崎市役所2階の多目的スペース。 長崎市内の保育園、幼稚園、認定こども園、放課後児童クラブ、児童発達支援、放課後等デイサービス、保育所等訪問支援など、さまざまな現場から多くの支援者の皆さんが参加されました。 今回のテーマは、「ABA(応用行動分析)を活用した事例検討とグループワーク」です。 日々子どもたちと関わっていると、 「どうして、この行動が起こるんだろう


「希望のまち」を訪ねて――建物、地域、そして人とのつながりから考えたこと
8月3日、北九州市で長年にわたり生活困窮者支援、居住支援、子ども・家族支援などに取り組んでこられた抱樸に招かれて職員研修を行いました。午前中は、現在建設が進んでいる「希望のまち」を見学させていただき、午後からは抱樸の職員の皆さんを対象に、発達障がいのある方への支援について研修を担当しました。一日の中で「建物をつくること」と「人を支援すること」という、一見すると異なる二つのことに触れました。しかし、振り返ってみると、この二つには共通するものがたくさんありました。それは、人が安心してそこにいられる場所をつくること、人と人との関係をつくること、そして誰かを孤立させないことです。私自身、普段は応用行動分析(ABA)をベースとして、発達障がいや知的障がい、強度行動障がいのある方々への支援に関わっています。その意味でも、今回の訪問は、自分が日頃行っている「支援」という営みを、少し違った角度から見つめ直す大変貴重な機会になりました。 『希望のまちの作り方』を読んでから現地へ 今回の訪問に先立ち、『希望のまちの作り方』を拝読しました。本を読みながら強く感じたのは
【開催報告】令和8年度 第1回ポジティブ行動支援・北九州研修会を開催しました!〜行動の観察と記録の仕方を学ぶ〜
障がい福祉の現場や教育・医療の現場で、利用者様の「困った行動」に直面し、どのように関わればよいか悩んだ経験はありませんか?私たちは、そのような現場の課題に対して、応用行動分析(ABA)の理論に基づき、本人の生活の質(QOL)を向上させるためのアプローチ「ポジティブ行動支援(PBS)」を学び、実践し、繋がるネットワーク作りを目指しています 。 令和8年5月22日(金)、ウェルとばた・6ABにて、令和8年度初となる第1回「ポジティブ行動支援・北九州」研修会を開催いたしました 。 今回は、その熱気あふれる研修会の様子を、当日使用された貴重な資料や具体的な事例を交えながら、余すところなくお届けします! 1. 満員御礼!51名の熱い支援者が集結 2024年の発足以来、着実に歩みを進めてきた「ポジティブ行動支援・北九州」 。令和8年度の幕開けとなる今回の研修会には、なんと51名もの方々にご参加いただきました。 特筆すべきは、受講者の半数以上が昨年度の研究会には参加されていない「新規の申込者」であったことです。障がい福祉サービス事業所をはじめ、学校


✦ 農福連携の生活介護事業所「ゆめそだてファーム」を訪問して
5月12日(火)10:00〜11:40 管理者と所長 ■ 施設に到着して 建物は広めの一般住宅を改修したもので、昨年4月に農福連携の生活介護事業所としてオープンしたそうです。広い駐車場があり、建物の前には地域の生活道路が通っていて、まさに「地域の中にある施設」という印象を受けました。1階と2階があり、入浴ニーズのある方や家庭・グループホームから通う方まで、幅広い利用者が利用しています。 ■ 利用者の様子と支援の工夫 4月に特別支援学校から移ってきたMさんは、声や人の刺激に敏感で、1階では他害が見られることもあったそうです。しかし、2階に移ってからは驚くほど落ち着いて過ごせているとのことでした。 今後は、本人の様子を丁寧に見守りながら、少しずつグループ活動への参加を進めていく予定だと伺いました。同じく4月から利用しているSさんは、強いこだわりがあり、止められるとパニックになり支援員を押すなどの危険行為が出ることがあります。掲示物やスケジュールを破る行動もあり、理由は「仕事をしたくない」などさまざまです。現在はこだわりの対象物を見えないように工夫し、
北九州市の発達障害児支援研修が新たな段階へ― 公開保育の拡充と、ABC分析を軸にした“現場で使える支援力”の育成 ―
北九州市では十数年にわたり、市の直営保育所を中心に「発達障害児支援研修」を継続して実施してきました。 この研修は、障害児保育の基礎理解から、個別支援の方法、園内での連携、そして公開保育を通じた実践共有まで、段階的に学べる体系的なプログラムとして高く評価されてきました。 昨年度(令和7年度)からは、これまでの直営中心の枠を超え、民間保育所の保育士も参加できる形へと大きく拡大しました。募集開始から数日で定員に達するほどの反響があり、現場の関心とニーズの高さが改めて浮き彫りになりました。 そして今年度(令和8年度)。 5月7日に市の保育課の担当者4名がABC研究所に来所し、今年度の研修の方向性について詳細な協議が行われました。その内容は、これまでの成果を踏まえつつ、さらに一歩踏み込んだ「実践力の育成」と「園間連携の強化」を目指すものとなりました。 ■ 昨年度の成果:民間園の参加で広がった“地域の学びの輪” 昨年度の研修では、直営・民間あわせて約30名の保育士が参加し、座学だけでなく 2園での公開保育を見学しながら学ぶ実践型研修 が実施されました。令
医療強度行動障害研究会・心理部会オンラインキックオフミーティング報告
発起人:鳥取大学・井上教授/事務局:周南市鼓ヶ浦療育福祉センター・安田相談員 令和8年5月7日(木)医療強度行動障害研究会の新たな試みとして、心理職を中心とした「心理部会」が立ち上がった。 そのオンライン・キックオフミーティングが開催され、全国の医療・福祉・教育・大学研究者など、多様な領域で強度行動障害支援に携わる専門家が参加した。本稿では、プライバシーに配慮しつつ、議論のエッセンスをまとめ、心理部会が目指す方向性を整理する。 1. 参加者の背景と問題意識 まず印象的だったのは、参加者の領域の広さである。 医療機関の強度行動障害チーム、発達障害者支援センター、大学研究者、福祉施設の相談員、学校現場のコンサルタント、早期療育、TEACCH、ESDM、PBSなど、実践と研究の両面から多様な専門家が集まった。 ● 現場の共通課題 参加者の発言から浮かび上がったのは、次のような共通課題である。 機能的アセスメントを現場でどう実装するか 「アセスメントまではできるが、その後の実践につながらない」「保護者や支援者にどう伝えるかが難しい」という声が複数あった。


自閉症啓発デー2026北九州に参加して― 映画が教えてくれた「理解」と「つながり」の大切さ ―
自閉症啓発デー2026北九州に参加した今年の4月5日(日)は、私にとって例年以上に深い意味を持つ一日となりました。 会場で上映された映画をきっかけに、当事者の苦悩や家族の葛藤、そして支援者としての自分の役割について、改めて考えさせられたからです。 さらに、啓発デーの趣旨と昨今の世界情勢を重ね合わせると、私たちが社会の中で何を大切にすべきかという問いが、より鮮明に浮かび上がってきました。 ■ 映画が描く二人の少女の出会い ADHDを抱える絃(いと)と朱里(じゅり) 映画の主人公は、発達障害のひとつであるADHDを抱える二人の女子高校生、絃(いと)と朱里(じゅり)です。 絃は進学校に通う真面目な少女ですが、ひどい物忘れに悩まされ、生活や学業に支障をきたしています。重要なテストの日に目覚ましをかけ忘れて寝坊してしまい、そのショックから学校へ行けず、ふらりと立ち寄った公園で朱里と出会います。 朱里は茶髪に派手なメイクの“ギャル”風の女子高生。初対面でいきなり「ADHDって知ってる?」と明るく言い放つ彼女に、絃は驚きながらも惹かれていきます。...
「意思決定支援」は理念ではなく実装の問題である—又村あおい氏 講演会(2026/3/28@ウェルとばた)参加レポート
2026年3月28日(土)、北九州市ウェルとばたで開催された、又村あおい氏(全国手をつなぐ育成会連合会 常務理事)による講演会「知的障害と意思決定支援」に参加しました。 会場には、家族、支援者、行政職員、教育関係者など、多様な立場の方々が集まり、北九州として「意思決定支援」をどう実装していくのかを考える貴重な機会となりました。 冒頭、北九州市の担当課長が次のように挨拶されました。 「現状では、当事者の意向よりも、家族や支援者の意向が優先されていないか」 この言葉は、講演全体の核心を象徴していたように思います。 意思決定支援は、制度や理念の話ではなく、“本人の人生を本人が選べるようにする”という極めて実践的なテーマだからです。 1.意思決定支援は「権利」であり、現場の必須要素です 又村氏はまず、意思決定支援が国際条約・国内法で明確に位置づけられていることを示されました。 障害者権利条約第12条では、 「障害者が法的能力を行使するために必要な支援を利用する機会を提供する」 と規定されています。 また、改正障害者基本法第3条では、...









