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令和7年11月1日開催 佐賀フォーラム

令和7年11月1日、佐賀女子短期大学にて「2025 One Society FORUM SAGA ~これからの強度行動障害支援のあり方~」が開催されました。本フォーラムは、令和6年に設立された一般社団法人佐賀県強度行動障害支援推進協議会が主催し、福祉・教育・医療・行政など多様な分野の関係者が一堂に会する貴重な機会となりました。強度行動障害のある方々やそのご家族が、地域で安心して暮らせる社会の実現に向けて、支援の現状と課題、今後の展望について多角的な視点から議論が交わされました。

当日は、開始前からちょっとした“旅のドラマ”がありました。基調講演を担当された今本氏は、博多から佐賀への電車がまさかのトラブルで運行停止。急きょ天神へ移動し、バスに乗り換えて佐賀入りするという大冒険を経ての到着でした。一方、行政説明を担当された山根氏も、飛行機の遅延により到着が遅れるというハプニングが重なり、事前の打ち合わせ時間は確保できず…。それでも、関係者の柔軟な対応により、プログラムの順番を入れ替え、今本氏の講演の後に山根氏の行政説明を行うことで、無事にフォーラムを開催することができました。まさに“One Society”の名にふさわしい、支え合いと連携の一日となりました。


佐賀県の強度行動障害の施策説明

令和7年度佐賀県強度行動障害支援推進協議会主催フォーラムにおいて、佐賀県健康福祉部障害福祉課の種村部長の挨拶の後、田中課長は、県の強度行動障害支援施策の現状と今後の方向性について詳細に説明しました。まず、令和3年11月の調査結果をもとに、県内で強度行動障害の状態にある方は18歳以上で890人、18歳未満で55人とされ、支援の必要性が年々高まっていることが強調されました。特に、療育手帳を取得している方が多く、支援の質と体制の充実が急務であると述べられました。

この課題に対応するため、佐賀県では「強度行動障害支援者フォローアップ研修」や「アドバイザー派遣事業」を中心に、支援者の育成と現場支援の強化を図っています。フォローアップ研修は、医療・福祉・教育の分野を超えて幅広く参加者を募り、年間を通じて同じグループで学び合う形式を採用。実際の支援事例を持ち寄り、支援の組み立て方やロジックを深く学ぶことで、現場での実践力を高めることを目的としています。さらに、ファシリテーターやスーパーバイザーによる継続的な助言が行われ、支援者同士の横のつながりも強化されています。

また、アドバイザー派遣事業では、研修修了者の所属事業所等に対して、専門的知見を持つアドバイザーが現場に赴き、困難事例への対応や支援環境の改善を支援。令和6年度には14事業所に対して延べ39名のアドバイザーが派遣され、実践的な成果を上げています。

田中課長は、これらの施策を継続的に見直しながら発展させ、将来的には研修修了者が講師や指導者として活躍できるような育成ルートの確立を目指すと述べました。さらに、在宅で支援を必要とする方やその家族への施策の充実、広域的人材制度の活用による支援対象事業所の拡大など、今後の課題にも積極的に取り組む姿勢を示しました。最終的には、佐賀県の取組を「佐賀モデル」として全国に発信し、強度行動障害支援の先進地としての役割を果たしていく意欲が語られました。

基調令和7年度佐賀県強度行動障害支援推進協議会主催フォーラムにて、ABC研究所代表・今本繁氏による基調講演「強度行動障害とは何か?~その理解と行動の背景~」が行われました。講演では、強度行動障害の定義とその支援のあり方について、応用行動分析(ABA)の視点から深く掘り下げられました。


基調講演

今本氏は、厚生労働省の定義にある「著しい自傷・他傷・物壊し・睡眠や食事の障害などが頻繁に起こり、処遇が困難な状態」という行政的な枠組みだけでは、強度行動障害の本質を捉えきれないと指摘。行動の背景には、個人の過去から現在までの環境との相互作用があり、行動は「先行事象」「行動」「結果事象」の三つの要素からなる「行動随伴性」によって理解されると説明しました。

講演では、行動が持続・増加する理由として「強化」の概念を紹介し、正の強化(行動後に好ましい結果が得られる)と負の強化(行動後に嫌な状況が消える)の違いが具体例を交えて解説しました。例えば、自傷行為によって望む活動が得られる場合、その行動は強化されてしまう可能性があることが示されました。

また、行動の機能として「物や活動の獲得」「注目の獲得」「感覚刺激の獲得」「嫌なことの回避」の4つがあるとし、同じ行動でも背景や目的が異なることを強調。支援者が行動の機能を見誤ると、逆に問題行動を強化してしまう危険性があると述べました。

さらに、実際の事例として、家庭内暴力を起こしていたAさんの支援プロセスが紹介されました。入院から退院までの間、家族支援会議やデイ・ナイトケアを通じて、保護者の対応行動の改善と本人の行動支援が並行して行われ、行動記録による行動の継時的な把握が効果を上げたことを示しました。

Bさんは中度知的障害と自閉症の診断を受けた30代の方で、生活介護とグループホームを利用していました。他害行為が激化し、職員への暴力が原因で緊急入院となりました。入院後、相談支援員が中心となり、家族や施設職員、心理士と連携して支援体制を整備。ABC分析を活用し、行動の背景や機能を明らかにしながら、家庭・施設・グループホームでの環境調整を実施しました。退院後は、怪我の予防を最優先にしつつ、徐々にQOL向上を目指す支援が展開されました。

講演の締めくくりでは、コンサルテーションにおいては専門用語の多用を避け、わかりやすい説明を心がけること、そして支援者同士の連携と環境整備の重要性が強調されました。今本氏は「One Society」の理念のもと、誰もが安心して暮らせる地域づくりに向けて、支援者がつながり合うことの意義を力強く語りました。


行政説明

厚生労働省 地域生活・発達障害者支援室の山根和史調整官は、国の支援施策の現状と今後の方向性について説明しました。山根氏はまず、「強度行動障害」は生まれつきの障害ではなく、現在の状態であり、特別な支援が必要な状況であると強調。自傷・他害・異食・多動などの行動が高頻度で現れるため、本人や周囲の生活に大きな影響を及ぼすと述べました。

支援対象者の把握には、障害支援区分の調査における「行動関連項目」の得点が用いられ、令和6年度の報酬改定では、より高い得点(18点以上)に対する加算や「集中的支援加算」が新設されました。これは、状態が悪化した方に対して広域的支援人材が訪問し、アセスメントや環境調整を行うことで、支援の質を高める取り組みです。

アセスメントには、特性の理解と機能的アセスメントの重要性を強調されました。特性の理解では、キュウリが苦手なのにマクドナルドのハンバーガーに入っているピクルスを知らずに食べてしまったエピソードや生魚の匂いが苦手な青年が、友人に誘われて寿司屋でアルバイトを始めた話も紹介されました。彼は、先に働いていた友人が匂いを我慢して笑顔で接客していたと思い込み、「自分も頑張らなきゃ」と無理をしていたそうです。このような経験は、本人の特性に対する理解不足がストレスや行動問題の引き金になることを示しており、支援者や周囲の人々が特性を正しく理解し、環境を調整することの大切さを物語っています。

また、賛否のある強度行動障害支援者養成研修の重要性にも触れ、基礎研修・実践研修を通じて何も専門性のないところからある程度の専門性を高めることができること、共通言語を普及させることで支援をしやすくなることを説明。支援は個人の障害特性と環境要因の両面からアセスメントし、標準的な支援を地域全体で共有・実践することが求められると語りました。最後に、国・都道府県・市町村が連携し、地域の支援力を高める体制づくりの必要性を強調しました。


シンポジウム

福島氏の講演

社会福祉法人はるの福島龍三郎氏は、「福祉と地域の立場から」と題し、佐賀県における強度行動障害支援の歩みと今後の展望について発表しました。福島氏は、佐賀県では2013年から強度行動障害支援者養成研修を実施し、2018年には「さが行動障害支援者ネットワーク」、2020年には「佐賀CB支援ネット」を立ち上げ、研修や事例検討を通じて支援者の連携と育成を進めてきたと紹介しました。

また、家族や現場の声を行政や議会に届ける取り組みとして、勉強会や懇親会、意見交換会を重ね、2022年度には「強度行動障害支援部会」が設置され、支援者養成や福祉と教育の連携、県予算の確保などが議論されていると報告しました。

さらに、佐賀県独自の「強度行動障害支援者サポート事業」では、アドバイザー派遣やフォローアップ研修を通じて、現場支援者の資質向上と横のつながりの強化を図っていると説明。今後の課題としては、専門的な相談体制の整備や中核的人材の育成、標準的支援の普及、困難ケースへのマネジメント機能の強化などを挙げ、地域全体で支える体制の構築を目指す姿勢を示しました。


會田医師の講演

國立病院機構肥前精神医療センター統括診療部長の會田千重医師は、「強度行動障害と医療」をテーマに講演を行いました。會田医師は、強度行動障害を「障害特性と環境のミスマッチから生じる状態像」と定義し、特に重度知的障害を伴う自閉スペクトラム症の方に多く見られると説明しました。

医療の役割としては、緊急対応や悪化予防、身体的治療、地域生活への移行支援が挙げられ、これらを実現するには医療・福祉・教育の「双方向の連携・アウトリーチ・研修」が不可欠であると強調しました。また、薬物療法は第一選択ではなく、標準的な支援(機能的アセスメントと環境調整)を重視し、広義の医療として心理社会的介入を含めた支援が必要であると述べました。

さらに、医療現場での支援には視覚的支援の活用や、クライシスプランの作成・共有が重要であるとし、福祉や教育との情報連携を円滑にするための基本情報シートの活用も紹介。最後に、医療従事者向けのチーム医療研修の意義を語り、支援者自身の感情理解やセルフケアの重要性にも言及しました。


ディスカッション

シンポジウムの終盤に行われたディスカッションでは、「これからの強度行動障害支援の目指すべき道」をテーマに、教育・医療・福祉・行政の各分野の専門家が、それぞれの立場から意見を交わしました。進行は佐賀女子短期大学の中山政弘氏が務め、會田千重医師、福島龍三郎氏、山根和史氏、今本繁氏が登壇しました。


教育分野では、3層支援の枠組みにおいて、学校が第1・第2層の支援を担い、第3層の専門的支援は医療や福祉が連携して補完する必要性が示されました。會田医師は、強度行動障害の背景には「感覚過敏型」「虐待型」「ミスマッチ型」の3つのパターンがあるとし、支援の個別化と成人期まで見据えた教育の継続が重要であると述べました。

連携の在り方については、山根氏が「ネットワーク構築のモチベーションはどこにあるのか」と問いかけ、福島氏は「困っている人を助けたいという気持ちが原動力」と応じました。會田医師は、看護師が現場の最前線に立つ中で抱える陰性感情に触れ、それを抑えるのではなく、共有し合える場の必要性を強調。今本氏は、地域の中で多様な人材を「七人の侍」のように見出し、バランス感覚を持った支援者を育てることの大切さを語りました。


質疑応答では、支援の成果によって障害支援区分が下がり、加算が減るという制度上のジレンマや、児童相談所との連携の難しさが指摘されました。これに対し、山根氏は「制度と人材育成はセットで考えるべき」と述べ、會田医師はQOLを評価に含める視点の重要性を紹介。福島氏は「選択の機会が行動改善につながる」とし、今本氏は「行動的QOL」という概念を紹介しました。

最後に、困難事例の情報を集約し、行政が主体となって議論する場の必要性や、虐待対応を含む部会の設置など、今後の体制整備に向けた具体的な提案もなされ、参加者の関心と期待の高まりが感じられる締めくくりとなりました。


まとめ

今回のフォーラムを通じて、佐賀県における強度行動障害支援の施策が、行政の強力なバックアップのもとで着実に進められていることを実感しました。県庁からは部長・副部長・課長が揃って出席され、プレゼンテーションを通じてその熱意と方向性が明確に示されました。懇親の場でも、担当課長の方から、令和6年に設立された一般社団法人佐賀県強度行動障害支援推進協議会の存在が、医療・福祉の連携を促進し、協力体制を築きやすくしているとのお話を伺いました。庁内の縦割りを越えて局長や教育長、学校長へ直接働きかける姿勢には、行政の本気度と未来への覚悟が感じられました。さらに、佐賀県知事も本施策を力強く後押ししており、県全体として支援の充実に向けた明確な意思が示されています。

そして何より、協議会の肥前医療センターの會田医師や代表理事である福島龍三郎氏をはじめとするリーダー陣の覚悟と戦略が、この取り組みの推進力となっています。医療・福祉・教育の各分野に精通した理事たちが集い、現場の声を政策に反映させるための提言活動や研修事業を着実に展開しており、その構造的なアプローチには、地域の未来を見据えた強い意志が感じられます。こうした多職種連携と実践知の融合こそが、佐賀ならではの「佐賀スタイル」であり、全国に発信できる「佐賀モデル」としての可能性を大いに秘めています。

30年以上にわたる施策の伴走の歴史が今に繋がっていること、そしてその当時の担当者が今も幹部として現場に立ち続けていることに深い感銘を受けました。会場運営に携わった皆さんの見事な連携と機敏な動きにも、支援の現場を支える力強さを感じました。佐賀の取り組みは、まさに「One Society」の理念を体現するものであり、今後の全国的な支援体制づくりに向けた希望の光となると確信しています。

フォーラムの帰路、神崎駅に佇む卑弥呼像を目にし、ふと佐賀の支援体制におけるリーダーシップの象徴と重なって見えました。各分野で活躍する方々が、それぞれの立場から知恵を持ち寄り、共に未来を描こうとする姿が印象的でした。特に、現場を支える柔軟さと力強さは、佐賀らしい連携のかたちを感じました。佐賀の取り組みは、制度や施策だけでなく、人と人との信頼と協働によって支えられており、その姿勢こそが「One Society」の理念を体現していると感じます。このフォーラムで交わされた対話と連携が、今後の地域づくりの礎となることを心から願っています。

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