自制心と幸せについて

 セルフコントロール(自制心)について行動理論では、遅延の少ない小さな強化子と、遅延の長い大きな強化子間の選択行動のうち、後者の行動を選ぶことと言っています。反対に前者の行動を選ぶことを衝動性と言います。衝動性の問題を簡単に言うと“目先の小さな利益にとらわれる(あるいは小さな失敗を見過ごしにする)と長い目で見て大きな利益を失う(あるいは大きな失敗を招く)ことになる”ということかもしれません。

 セルフコントロールの研究は、行動経済学における消費者の行動やアルコールや薬物などの依存症、発達障害者の衝動性の問題など広い分野で応用されています。私の専門は自閉スペクトラム症を始めとする発達障害の療育です。発達障害の人の症状の1つに衝動性があり、それが対象者の損や不適応を招いていることが多いと思われます。

 先日、朝の通勤時間に自転車で横断歩道の青信号を待って横断しようとしたら、すでに横断歩道の半分に車体を割り込ませていた車の運転手が、私の進行を遮りがなら睨みを利かせてこちらを見てさっと通り過ぎていきました。「そんなに急いで何か得なことがあるのだろうか」と横目でその車の後を追いながら、ふと心の中でつぶやきました。先を急ぐせっかちな質の人は事故に遭う確率が高いだろうと思います。つまり、目先の小さな利益のために長い目で見て大きな失敗を招いてしまうのです。発達障害の人は、さまざまな場面でこのような失敗に遭遇しているのだろうと考えると悲しくなります。

 昔のことわざに“備えあれば憂いなし”というものがありますが、これを論理学でいう「反対の逆は真である」という定理を使うと“憂いあれば備えなし”ということになります。自閉スペクトラム症の人に何か心配事や不安がある時は、私たちの方に備えがなかったからではないでしょうか。

 ですから何かの備えがあれば、自閉スペクトラム症者の憂いをなくすことができるのではないかと考えています。つまり、自閉スペクトラム症者の衝動性を予防するような何らかの備えをすることで、不安や心配事を予防し社会適応を図ることができるのではないかということです。

 米国の心理学者であるB.F.スキナーは“幸せとは自ら行動して強化子を獲得する時に得られる”と行動理論に基づく幸福論について述べています。この言説には重要な示唆が含まれています。お金があるとか、高い地位にあるといった状態が幸福なのではなく、行動して何かを成して良い結果を得られた時(あるいは危機を脱した時)に幸福だということです。何かアクションを起こすことが大事ですね。

 ABC研究所では、自閉スペクトラム症者の人たちが長い目で見て人生でより大きな幸福を得られるにはどうしたらいいのか、ということを願って行動したいと思います。

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(同) ABC研究所は、自閉症スペクトラム障害 (ASD) に関する支援法について普及や啓発を行うことを使命にしています。自閉症支援は、応用行動分析 (ABA) とTEACCHプログラムに基づいた科学的方法論を基にしています。ABAは、自閉スペクトラム症をはじめとする発達障害の支援についてアメリカ連邦公衆衛生局によって科学的に効果が確認されている方法論として推奨されています。TEACCHは米国ノースカロライナ大学と州政府が中心となって州全体で取り組んでいる自閉症児者の包括的な支援制度で、そこで開発された構造化や視覚的支援などの方法論は世界的な自閉症支援の標準となっています。ABC研究所は、その使命を果たすために、自閉症スペクトラムの支援法に関する研修・セミナー、施設・学校でのコンサルテーション、コミュニケーションや学習教材の研究開発、個別の療育や相談を行っています。

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