不登校へのアプローチ 明治学院大学 小野昌彦氏 平成27年

平成27年12月20日(日)は、大分認知行動療法セミナーでの講演を聞きに大分大学医学部に来ました。北九州から電車で1時間少しでした。小倉から大分までの特急電車が遅れたので乗り継ぎのバス乗車も遅れ、開演に少し間に合わなかったのが残念でしたが、とても勉強になりました。

演者の小野先生は、筑波大学の大学院時代の博士課程の小林重雄研究室(通称、コバ研)の先輩でもあります。コバ研は、大きく研究テーマが自閉症と不登校の部門に分かれていて、私は自閉症部門に所属していましたが、臨床経験を積むために不登校部門も出入りしていました。研究室はピラミッド構造になっていたので、私は小野先生から直接指導していただくことはなく、その院生の人たちと一緒にやっていました。

コバ研出身者であるので方法論は、行動療法や行動分析学的アプローチなので、とてもわかりやすい内容でした。私が何よりもありがたいのは、科学的、理論的な裏付けのある方法論を使っているというところだけでなく、臨床的な極意であったり、秘訣であったり、裏話を聞けるところです。こういう所は、臨床アプローチが異なっても共通している部分であり、自分の行動論的な解釈に置きなおして聞いているところでもあります。事例は紹介できないので、そのエッセンスをいくつかを箇条書きで紹介します。 1.不登校とは学校場面からの回避行動 2.臨床家は、最初は嫌われるが学校よりも厳しくあるべき 3.不登校にも、単純回避型、優等生型など様々な型がある   アセスメントをして実態を探り、個別の支援計画を立てて実践することが大切 4.無為な回避行動を強化してはいけない   法制度的に学校に行かなくても卒業できてしまうことも、不登校を助長している要因の1つ。 5.好きなことを活用して登校準備活動としての体力作り、ソーシャルスキルにつなげる   不登校が続くと体力が落ちる。気力と体力は相関している。 6.クリニックでなく現場でトレーニングすることが大切 7.修羅場になると燃える 8.登校を維持するには、本人への働きかけだけでなく、受け入れ側(学校)も変えなければならない

9.目的を達成したらセラピストは離れていくようにする

Q&A:あるフリースクールの運営者の質問

私どもの事業所では、厳しい対応をして登校も95%くらいできている。子どもは帯状発疹ができるぐらいで、うちよりも学校の方が楽と言って復帰するようだ。一方で教育保障もしっかり行っている。これからどのように考えたら良いか?

A:まず、メインが復帰施設なのか、教育施設なのか運営方針をはっきりしてはどうでしょうか?95%も復帰させているなら、そのままでいいと思います。東京八王子のフリースクールで高尾山学園のように、校長が企業出身者で、職員は元教員を雇っていて教育も両方をしっかり取り組みながらやっているところもあります。

午後は、専門家向けに事例を通した具体的な臨床実践のを統合した形での話でした。 1.小学校3年の事例A: 「本人は登校して友だちと運動遊びがしたい。家庭内で母親への暴力がある。運動遊びでうまくいかないと切れることがある。」

(1)マンドとタクト  「今日は寒い」というように環境の状況を説明する言語行動をタクトといい、「エアコンつけてください」のように聞き手に具体的な行動を促す言語行動をマンドといいます。タクトでは聞き手は「寒いね」と共感するのが通常の反応で、マンドでは実際にエアコンをつけてあげるわけです。  聞き手は、タクトでは動かないけれども、マンドで動くわけです。  しかし、多くの親子の関係性の中で、親は子どもの言語や行動を先読みして行動するということが起こりがちです。たとえば、「部屋寒い」という本来タクトであるはずの子どもの言語行動に親はエアコンをつけてあげるという要求を叶える対応するということが起こる場合が多いのです。  A君はタクトですぐに親の反応がない場合に暴れ、さらにそれで親が要求を叶えるという悪循環が生じていました。A君には「寒いからエアコンつけてください」というマンドを教えるべきなのです。いったい何が違うの?と一見思うかもしれませんが、小さいけどとても重要なことです。

(2)「様子を見ましょう」、「待ちましょう」の弊害 よくこのようなお子さんに対して、「様子を見ましょう」と言って先送りをするケースがありますが、それだとどんどん回避行動が強化され長引くだけです。それにより本来子どもが得られるはずの教育的、社会的な機会を奪ってしまいます。すぐ始めることを強調されていました。

(3)登校準備のためのダイヤグラム  ではやみくもに始めるとか、無理やり子どもを学校に引っ張っていくという意味ではありません。ちゃんとした準備と計画が必要です。再登校のための個別支援計画の重要性を強調されていました。発達障がいでは、個別支援計画は取り組まれていますが、不登校に関しては十分ではないということも述べていらっしゃいました。小野氏は、再登校準備のダイヤグラムを独自に開発されています。

(4)先生や親が先読みして安易な対応を取らない マンドとタクトの項でも説明したように、大人が安易に先読みして対応すると、思わぬ本人の回避行動を強化してしまうことが起こりかねません。まず、本人の気持ちをアセスメントして、適切な振舞いを教えることが肝心です。

子どもの回避行動を不適切に強化してしまう例) 子ども:「先生、跳び箱しんどい」と言う 先生:「休んでいいよ」と言って休ませる 子ども:ほっとして休む

アセスメントすると、跳び箱の跳び方が良く分からなくて回避していたことがわかりました。そこで行った実際の指導は、

 子ども:「先生、跳び箱の跳び方教えてください」 先生:「わかりました」と言って実際の指導 子ども:「わあ、跳べた(実際の達成感)。先生ありがとう(感謝)。」 先生の本来の仕事は生徒に「教えること」です。そして子どもは、実際に成功することで適切な行動を身に付けていきます。またこの感謝を述べるということも大事だと強調されていました。

(5)休む時のルールを明確にする。 本当にきつい時は、休むことも大事です。社会に出た時にどうすべきかという基準で考えます。熱を測る、病院を受診する、休みの連絡を入れる

(6)記録のお願い 普段家庭では、暴力で要求を叶えず、マンド「〇〇ちょうだい」で要求を叶えるようにします。会話のスクリプトを課題分析して教えていました。あと野球で空振りするとバットを投げて切れることが起こっていたので、マンド「ここに投げてください」と言うことを教えました。課題の達成度と暴力の生起数の記録を親や教師に頼みます。記録を見ることで、マンドの達成度が上がるごとに切れたり、暴力をしたりする生起数が減っているのがわかります。

(7)ほめて伸びるタイプ、しごいて伸びるタイプ、逆境で覚醒するタイプを見極める  ちなみに小野氏は、逆境で目覚めるタイプということでした。

2.中学生の事例B

<登校までの取り組み>

・ストラテジーシート「相談所に徒歩で行く」

・本人と約束(ルール)を決める

・回避行動(相談所に行かないで他所に行く)にどう対処するか?→正当な理由がない場合は連れて行くなど回避させないようにする。たとえ遅れても、夜遅くなっても。

・その場合、本人に謝らせて受け入れることをする。単にソーシャルスキルだけでなく、アサーショントレーニングとして重要。

<再登校の準備>

  • 再登校予定日を決める、②家族との支援関係の確立、③学校との支援関係の確立

<再登校のプロセス>

・スモールステップ:時間・場所・人の要素を一度に1つずつ

 例)誰もいない教室→教室で先生1人→2人

・逆行連鎖で後ろから前に登校時間を伸ばしていく

・プロセスの途中で必ず何らかの回避行動が出てくる。新しいステップで回避が生じる(登校に近づくと不安が高じるので)。回避させず直面化させることが大事。セラピストは、その場その場で生じる回避行動に対して、ポイントを外さない対応が大切。

・例)「学校に行く意味がわからない」と言い始めた。今までは「じゃあ、行かなくていいよ」と回避行動を認めていた。学校や親の対応が意味を分からなくしている面もある。

・実際の対応:1週間、自分で考えるように言う(期限を決めるのは大切)。実際の方法として校長の話を聞くことになった。親や学校も回避してはいけない。

・回避を助長するとどんどん悪化する(テスト受けなくていいよ、休んでいいよ・・)。

・本人にとっての一番の薬は実際に何か成功すること(テストの点が上がる、授業がわかる)

3.行政や組織での取り組み

・共通認識と一貫性のある対応の確認

 不登校の把握、方針①早めに取り組む、②難しい場合の転校、③それでも難しい場合の投稿支援教室の利用

・先生がすべきことのチェックリスト→達成度の記録。秋口に下がる。年度ごとに上がる。4,5年のスパンで考える。

Q&A:幼稚園から始めた方が良いのか?小学校に上がるまで様子を見た方が良いのか?

A:今始めた方が良い。他の発達課題と共にマンドとタクトを教えること。

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(同) ABC研究所は、自閉症スペクトラム障害 (ASD) に関する支援法について普及や啓発を行うことを使命にしています。自閉症支援は、応用行動分析 (ABA) とTEACCHプログラムに基づいた科学的方法論を基にしています。ABAは、自閉スペクトラム症をはじめとする発達障害の支援についてアメリカ連邦公衆衛生局によって科学的に効果が確認されている方法論として推奨されています。TEACCHは米国ノースカロライナ大学と州政府が中心となって州全体で取り組んでいる自閉症児者の包括的な支援制度で、そこで開発された構造化や視覚的支援などの方法論は世界的な自閉症支援の標準となっています。ABC研究所は、その使命を果たすために、自閉症スペクトラムの支援法に関する研修・セミナー、施設・学校でのコンサルテーション、コミュニケーションや学習教材の研究開発、個別の療育や相談を行っています。

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