野生と実験室でのチンパンジー研究を通じて人間の心の進化について理解する

平成27年9月に国際行動分析学会京都大会の招待講演者ということで京都大学霊長類研究所の松沢教授の話を聞きました。京都大学の霊長類研究所は、世界でもトップクラスの霊長類の研究を行っている施設です。主にチンパンジーやボノボを対象とした研究を行っています。普段、私たちは高度に社会化されたソフィストケートされた環境に住んでいるために広く生物の中の1つの種であることを忘れがちですが、今回の発表で我々も類人猿の1種ということを思い出させてくれます。講演後のコーヒーブレイクの時間に、松沢教授に話しかけると気さくに応じてくださいました。

まずは研究手法と飼育環境の変遷について話がありました。昔は実験室での研究が主流ですが、その後、アフリカなど現地での野生の様子を観察するフィールド研究が増え、最近はジャングルの中に狭い広場のようなものを作り、フィールドの中での実験研究などが行われています。サルの野生の状態を観察するフィールド研究は、確か霊長研の今西教授による日本オリジナルの研究手法だと思います。認知発達研究においては、子どもを対象に研究が行われるのですが、昔は子どもと親を離して狭い檻に入れていました。昔の白黒のスライドを見せてくれましたが、何ともおぞましい写真でした。

今は、檻で暮らすということは考えられません。私も20年近く前の大学院生の時に霊長研を見学させてもらったことがありますが、広々とした広場にフィールドアスレチックのような高く登れるような機材が所狭しと並んでいて群れとともに生活しています。これは個体のストレスを減らす倫理的な配慮でもあるし、より自然な状態での個体間、親子間の相互作用を観察するのに最適だからです。

ギニアのジャングルでのフィールド実験研究の様子を見せてもらいました。森の中に幅5から6mの円形の広場を作り周囲から観察できるように木と草で柵を作ります。道具の使用と世代間の伝達についての研究でした。真ん中に10cmくらいの四角い石ころを5-6個と木の実を置いておきます。するとチンパンジーの一群がやってきて、大人のチンパンジーが木の実を台となる石の上に置き石で割って食べ始めます。チンパンジーでも模倣行動はあるようなのですが、人間ほど上手にはいきません。子どものチンパンジーが真似して石を操作しようとしますがうまくいきません。

言語や認知にかかわる昔の霊長研での実験室での研究の紹介がありました。コンピューター画面上に幾つかのブロックが出てきて、それと合う数字を選択肢の中から選ぶという課題です。今でこそタッチパネルはどのパソコンにも装備されていますが、20-30年前は特注品だったと思います。1から10までの数量と数字のマッチング課題、数字を順番に押していく課題などを見ました。どれも上手にできるどころか、とても動きが速いのです。Masking Taskとうものもあって、画面上にランダムな配置で数字が数秒だけ現れ次に数字を隠すように白いブロックが現れます。数字が隠れているのにほぼ正確に数字の順番にその画面をタッチできるのです。それもとても速く。同じ課題を京都大学の学生にやらせてみたところ、ほとんどできなかったそうです。他に10種類くらいの色名の漢字と色のマッチングもできていました。それほど優秀なマッチングスキルを持つチンパンジーでも刺激等価性の成立や恣意的なシンボルの学習は難しいようです。

他にもたくさんの研究例についてビデオ映像を使いながら説明されていたので、全編英語で話されていましたが、とてもわかりやすいプレゼンでした。進化に伴う言語発達の要因については興味を引いたところです。チンパンジーの場合に母親と赤ちゃんは、常にくっついて動いているので赤ちゃんが母親に何かしらの信号を出さなくても生理的欲求を満たしてあげることができるけれども、人間と赤ちゃんは離れている時間が長ので、原初的には泣く、発語、そして言葉や身振り、物の操作によるコミュニケーションが発達していったのではないかというものでした。

最後に、世界各地の実験施設や動物施設などにいる霊長類を救う活動の紹介もありました。結構、医薬品会社で霊長類を使った研究が行われていて、劣悪な環境に置かれていたり、研究後のケアなどが十分に行われていないケースが多々あるようです。そういったチンパンジーなどを保護する施設を作ったりしているようです。

講演後のコーヒーブレイクの時間にコーヒーを飲んでいると、偶然松沢先生が通りかかったので話を伺うと、全く門外漢の私にも非常に気さくに応じてくださいました。ABAに基づいた自閉症児の療育の仕事をしていると自己紹介すると、ビデオで見た実験は、現在、慶応大学でABAに基づいた発達障害に関する研究で第一人者の山本淳一教授が霊長研におられた時のものですよと教えてくださいました。マッチングのレッスンの期間はどのくらいですか?と伺うと一日30分くらいで半年もするとできるようになるそうです。Masking Taskは、数字を順番に押すのができるようになってから、たった4-5試行でできるようになるそうです。あとで、そのことについて筑波大学の園山教授に話したら、「それは何か我々とは違う学習の仕方をしているんでしょうね」とおっしゃっていました。確かに京大の学生ができないというのはそういうことだろうし、そこに言語が介在しているのだろうなというのは、チンパンジーに刺激等価性が成立しないという事実からも直感的に感じました。深めていくと面白い研究テーマだと思います。

テーブルには、他の先生方も集まって自然にディスカッションの輪ができました。ある先生が「人間でもサバンがあるようにチンパンジーでもあるんじゃないですか?」と聞くと、松沢氏は、正式に調べたわけではないけれども、どうやらありそうだという興味深い答えでした。動物トレーナーをされている先生が、注射をされている場面について「いきなり注射をしても抵抗がなかったのですか?」と聞いたら、ラポールができているので難しくはなかったですとのことでした。私の腕をチンパンジーの腕に見立てて手に取ってどのようなプロセスで注射までに至るのかを説明してくださいました。https://www.pri.kyoto-u.ac.jp/index-j.html

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(同) ABC研究所は、自閉症スペクトラム障害 (ASD) に関する支援法について普及や啓発を行うことを使命にしています。自閉症支援は、応用行動分析 (ABA) とTEACCHプログラムに基づいた科学的方法論を基にしています。ABAは、自閉スペクトラム症をはじめとする発達障害の支援についてアメリカ連邦公衆衛生局によって科学的に効果が確認されている方法論として推奨されています。TEACCHは米国ノースカロライナ大学と州政府が中心となって州全体で取り組んでいる自閉症児者の包括的な支援制度で、そこで開発された構造化や視覚的支援などの方法論は世界的な自閉症支援の標準となっています。ABC研究所は、その使命を果たすために、自閉症スペクトラムの支援法に関する研修・セミナー、施設・学校でのコンサルテーション、コミュニケーションや学習教材の研究開発、個別の療育や相談を行っています。

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