平成27年10月11日福岡県臨床心理士会全体研修会&財団法人設立記念パーティ

実は、福岡に所属を移して10年近くになりますが県士会に参加するのはこれが初めてでした。前職では、とにかく土日がほぼ仕事で埋まっていたので学会や他の研修会に参加するのは年に1回程度でした。しかし、不幸中の幸いと言いますか、今年は6月に前職を退職し、土日に時間が持てるようになったため、学会や研修会の参加ラッシュが続いています。 さて研修会は天神のど真ん中のエルガーラの大きなホールで10時から行われました。さすがに福岡県の心理士会は大きく参加者も数百人はいたでしょうか。最初は、臨床家2人の対談から始まりました。通常は、基調講演という形でスピーチで始まるものなのでしょうが、臨床家2人の緩い対談で始まるというのは、ちょっと意外でした。臨床心理学といっても様々な分派があり、私の臨床の学問基盤は応用行動分析ですから、行動療法に分けられるのかもしれません。今日の対談者は、精神分析家の神田橋條治氏と増井武士氏の2人でした。司会者は高名な先生とうことで紹介を端折っていましたが、恥ずかしながら私は全く知りませんでした。会場の反応や雰囲気では、ほとんどの人にとっては馴染みの先生のようです。 私にとっては、精神分析は遠い昔、大学の研究生で学んだ程度で全くの未知の分野ですし、それから相当の年月が経って変容しているでしょう。2人の対談を聞いていても、基本的な用語や概念などわからないものばかりでした。この経験は私が行動分析学に基づいてセミナーを行う際に、受講者の気持ちを理解するのに役立ちました。何とか我慢して聞いているうちに頭が慣れてきて大まかにつかめるようになりました。お二人とも、具体的なケースについてというよりも、心理臨床の進め方、あり方についてメタファーを多用しながら話されているのが印象的でしたし、”ありのまま”を受容するといったマンドフルネスのような考え方を取り入れているようでした。分野が違ってもこれは世界的な流行の一旦のような気がしました。 午前は対談でスタートし、午後はステージ上での2事例の公開スーパーバイズでした。これは、具体的なケースだったので、午前よりはわかりやすいものでしたし、非常に勉強になりました。1ケース目の臨床家は、とてもアグレッシブな方で、2ケース目は穏やかな方で非常に対照的でした。それぞれのスタイルがあってもいいというのは新鮮に映りました。 1ケース目では増井氏がスーパーバイザーを務め、1つの技法を披露してくださいました。ペットボトルを取り出し、スーパーバイジーに向かってメタファーを使って質問しながら、ボトルを渡して操作してもらうというものです。「このボトルに今気がかりに思っていることを入れてください」、「今の状態を表す場所に置いてください」、「どこに置いたら気にならないですか?」、「どこにあったら楽ですか?」、「問題が解決した状態はどこですか?」などと質問して、バイジーに実際に置いてもらうのです。これは、直接問題について聞いたり扱ったりせずに、問題を操作した気持ちを持ってもらいための実技だという説明でした。 また1ケース目のスーパーバイズでは、スーパーバイザー(増井氏)とスーパーバイジー以外に7人の観察者が周りで観察してフィードバックを返すという独特なやり方で、村山先生という臨床家が開発したもののようです。観察者には、1人1つずつシンプルな質問をバイジーに投げかける、パスしても構わない、 批判的なことは言わない、メモや書いたものを使わないなどのルールがあるようです。これも初めて見たものでとても新鮮でした。 バイジーの悩みは、クライエントに対して時々怒りの感情が湧いてきて、それをぶつけてしまうことがあるというものでした。もちろん、プロの臨床家なのできちんとコントロールした上での反応だとは思います。様々なやり取りがあった中で、増井氏のコメントは、怒りが生じる前の感情や考えを素直にクライエントに伝えてみてはどうですか?というものでした。 これは自分自身の臨床実践上の癖でもあるので、気づきを促す上でとても参考になりました。 神田橋氏のコメントは、 観察者に対してバイジーが語る時の語調の変化やレジメを持ってきたけれども使わなかった点などについて気づきが大切だと言いました。私も、午前の対談や午後のケースについても、双方のノンバーバルなやり取りに注意を払って見ていましたが、細かい変化に気を配ることは大切だと気づかされました。また、次々に観察者が質問する中で「思っていた質問を前の人に言われた」ということについて、自分の考えに固着することなく、語っていることや新たな言説をデータとして常にこちらの態度を更新していく柔軟性が大事だと教えられました。

2事例目は、臨床経験が5-6年の若いバイジーの相談でした。クライエントは、統合失調症の判定だったけれども、発達障害に変わった人でした。バイザーは神田橋氏で、今度は通常の1対1でのやり取りに戻りました。午前の対談からそうなのですが、毎回始まりの時の緞帳が上がって始まるのと、ステージ上の設定がソファに深く腰掛けて対面して行う、通常の相談場面に近づけているのが面白いというか斬新だなと思って見ていました。2事例目は、発達に関する相談で私の専門分野なので、さらに興味深くやり取りを見守っていました。1例目も含めて実際のケースなので、ケースの内容をここでは紹介しませんが、バイジーの助言内容で一般的に参考になることを書きます。 a)発達障害の人への助言の仕方としては、WISCの検査結果など、具体的に結果が数値化されたものや視覚化されたものを提示しながら、優れている点をフィードバックすること、幼児期から得意なことや優れていることをフィードバックしてあげることが大事。 b)心理テストを受けることを拒否する人がいるが、その場合に、まずクライエントが自分の心理や精神状態を知りたいという欲求を汲み取り、セラピストはその下請けとして検査を行うのだという構図でテストを導入すると良い。 c)クライエントは、①受けてみたい②受けたくない③良くなるために受けた方が良いのだろう、というような葛藤の中で決めきれずにいる。この構図は、クライエントの人生の全ての局面に当てはまる構図だから大事にした方が良い。①と②だと単なる葛藤だが、③が出てきたということは①と②を俯瞰して見られるようになったということなのでこれは一段階成長したということなので良いこと。セラピストは焦らないでクライエント本人で決められるようにすることが大切。 d)クライエントは決めきれずに考えがぐるぐる回ることが多い、言いたいことをセラピストに言い切れないことがある。クライエントは、新しい事をしようとすると失敗するのでは?人を傷つけるのでは?と心配している。神田橋氏のコメント。過去の実際の経験で否定されたことが影響している。絵がうまいのに叔父さんに「そんなのできて何になる」と言われた。 e)インターネットでクライエントも自分で様々な問題について調べている。最近、「自分は、こう思う」と自分の意見を言うようになったことに対してのコメント。人の意見に影響されるのではなく、「自分は」という言葉を使うようになることは、自他の区別がつき、統合失調症の傾向が減ってきたこということなので良いこと。 f)発達障害の人の心理療法の極意は、優れたところを伸ばして、優れていない所を引っ張ってもらう、カバーするように支援するのがコツ。これは神田橋氏が家庭教師の時も実践していたことみたいです。ビル・ゲイツの例なども話されていました。逆に弱い所を直面化させる方法は、うまくいかない。 g)実際の成功経験の方が、セラピストからの励ましやサポートよりも効果がある。バイクの窃盗を繰り返して捕まった発達障害の人の面接の時、バイクをどうやって盗むかとう方法を説明している時は、とても生き生きしていた。 h)クライエントが以前の職場である女性にストーカーに近い行為をしていることを周囲の職場の人に知られ良く思われなかったことを語り、自分の方が被害者という思いがあるという訴えに、セラピストが違和感を感じていることに対しての神田橋氏のコメント。 i)発達障害のクライエントにストーカーが多く、あるクライエントは、ある女性のことが頭から離れず仕事も手につかないという。その女性の存在によって自分の仕事が手につかないなど日常生活に支障をきたしているという被害者としての思いがある。そして、その女性がいなくなれば、問題が消えると考える。 j)クライエントの話で同じことを延々と繰り返して眠くなることがある。神田橋氏のコメント。セラピストが眠くなることには意味があって、それはクライエントが問題の核心をずらして(隠して)延々と何かを述べる時。1事例目のアグレッシブな性格のセラピストは、そこで怒りを感じるが、このセラピストはそうではないと言ったところで会場でどっと笑いが起こる。 k)クライエントは、自分で決められないことに関して「能力がない」と言う。このような抽象名詞やラベルを使う時、クライエントは、何かのコンプレックスを覆い隠すとき。逆に動きを止める時の心理技法としてもセラピストは使える。抽象化は、直面化の対極にある。 l)直面化を急ぎ過ぎる(つまり問題の核心を突いたことをズバッと言う)と、クライエントは自分はセラピストに監視されているのではないかという妄想を抱かせ、悪化させることがあるので気をつける必要がある。その意味では、今回のケースのセラピストは、焦らずクライエントにじっくりと付き合い、時間をかけて上手に進めてきた。 m)クライエントがは時々無断で治療をキャンセルすることがある。キャンセルするという行為は、治療に抵抗を感じている時。治療が進みすぎると疲れるので休みたくなることがある。だから、キャンセルする時は、前の日に電話してもらうように伝える。

夕方は、福岡県臨床心理士財団設立記念パーティがありました。次々と功労者の挨拶や話があり、九州の心理臨床は他と比べても歴史があり、活発に活動しているんだなあと思いました。 しかも、様々な心理技法がある中で、九州ではそれぞれの立場の人が混在しながらも一緒にやってきたそうです。私は、割と格闘技が好きでよく見てますが、相撲も出げいこと言って、強い関取は他の部屋に行って稽古を行うと言います。他分野の人とも積極的に交流することが大事かもしれません。今日の研修も最初の対談は、他分野の話で専門用語も使われていて、よくわかりませんでしたが、午後の公開スーパーバイズは、様々な臨床上、役に立つ具体的なヒントや示唆が得られてとても勉強になりました。これからも、なるべく足を運びたいと思います。 また心理士会の会長が出席予定でしたが、代わりに副会長が挨拶に立ちました。前回の9月9日の国会で、公認心理師法が参議院本会議で全会一致で可決成立しました。既存の私たちの団体がどうなるのかについての話もありました。あと九州各地の県士会の会長や役員も出席されていて、その中の大分心理士会の会長が筑波の大学院の同級生であった佐藤晋治氏だったので思わぬ再会を喜び合いました。 同窓生が社会的に重要なポストについて活躍しているのは、誇らしい気分いなるものです。実際に会って話すと大学院時代に戻り、気さくに応じてくれるんですが。彼の奥さんも、実は同級生で元気にやっているとのことでした。 パーティには神田橋氏も出席されていたので挨拶がてら、お話しさせてもらいました。神田橋氏は医師でイギリス留学も経験されている臨床家ですが、今日のような公開スーパーバイズというやり方は、日本独自のものだそうです。日本もオリジナルな方法を開発しているんだなと思いました。

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(同) ABC研究所は、自閉症スペクトラム障害 (ASD) に関する支援法について普及や啓発を行うことを使命にしています。自閉症支援は、応用行動分析 (ABA) とTEACCHプログラムに基づいた科学的方法論を基にしています。ABAは、自閉スペクトラム症をはじめとする発達障害の支援についてアメリカ連邦公衆衛生局によって科学的に効果が確認されている方法論として推奨されています。TEACCHは米国ノースカロライナ大学と州政府が中心となって州全体で取り組んでいる自閉症児者の包括的な支援制度で、そこで開発された構造化や視覚的支援などの方法論は世界的な自閉症支援の標準となっています。ABC研究所は、その使命を果たすために、自閉症スペクトラムの支援法に関する研修・セミナー、施設・学校でのコンサルテーション、コミュニケーションや学習教材の研究開発、個別の療育や相談を行っています。

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