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第3章 チャレンジング行動の疫学

今日は、北九州チャレンジング行動研究会の第4回で高村氏による第3章「チャレンジング行動の疫学」の講義でしたので、その内容をダイジェストで紹介します。北九州チャレンジング行動研究会は、「チャレンジング行動 二瓶社」というエマーソン著の訳本をテキストにして、会員が読み合わせをしながら、強度行動障害の支援技術について学んでいます。


まず疫学の意味について高村氏が調べてくれました。「疫学とは『明確に規定された人間集団の中で出現する健康関連のいろいろな事象の頻度と分布およびそれrくぁの影響を与える要因を明らかにして、健康関連の諸問題に対する有効な対策樹立に役立てるための科学」と定義されるそうです。


全人口調査についてですが、これはチャレンジング行動の定義や基準によって、まちまちになってしまいますが、イングランドの北西部の調査では、人口1万人あたり1.91~3.5人だそうです。高村氏が、北九州市で過去数年の調査で明らかになった強度行動障害の人数をホームページから引用して計算すると、1万人当たり3.1人ということなので、ほぼ一致している結果となりました。横浜など他の地域でも実数調査は行われていますが、多少の差はあるものの同じくらいだと思います。


チャレンジング行動の種類は、攻撃行動、自傷行動、器物損壊で、同じ人に複数の行動が発生し、50~75%の人に複数の行動が併存しています。


性別では、男性に多く、攻撃行動や器物損壊損壊などがより顕著であること、年齢は青年期が有病率がピークで重度知的障害がある人は壮年期まで減少しない。レッシュナイハン症候群、レット症候群など知的障害と関連する症候群と関連し、自閉スペクトラム症では自傷行動の有病率が高い。


知的障害以外での有病率に関連する機能障害としては、視覚・聴覚障害、受容性と表現性のコミュニケーションの困難、ソーシャルスキルが低い場合、睡眠障害がある、メンタルヘルスの問題がある場合などです。自傷行動は、知的障害と移動障害(身体障碍)が見られる場合に顕著だそうです。


生活環境でのチャレンジング行動の有病率についてのカリフォルニア州の調査では、自立生活3%、在宅8%、地域の小規模施設9%、地域の大規模施設24%、入所施設49%で、脱施設化※の効果が見られないとのことですが、重度のチャレンジング行動がある故に施設利用が進められた結果とも言えると述べられています。


※アメリカの脱施設化:公民権運動と北欧のノーマライゼイションの運動の影響から起こった障害者の施設での処遇から地域生活に移行する運動


チャレンジング行動の有病率は、個人特性と環境特性の相互作用によって起こる


チャレンジング行動の発現は、小児期に発生し、約80%以上がその後も持続するため、改善を維持するには継続的な支援が必要である。


以上が、本の内容のダイジェストです。


疫学というとコロナ禍でも話題になりましたが、国や地方自治体などが全体の方針を決めて実行するという意味では、大変重要なのですが、支援の現場からすると非常に縁遠い感じがするので、現場に寄せる形で議論を行いました。まず、参加者に感想や意見を述べてもらい課題を次の4点に集約してみました。


①支援の一貫性を保つことが発症リスクを下げると思う。事業所ー学校ー家庭で、どのように一体的な支援を行うのか?かかわる事業所が増えるほど、調整や統一を図るのが難しくなる。職員間でも考えがバラバラなこともある。

②それぞれの人にあった支援を続けることが大事。その人に合った支援環境に移行する場合もどう支援の一貫性を保つか?

③幼児期に発症という話があったが、児童の支援をしていると中、高など思春期から悪化する人が多いと感じる

④チャレンジング行動は、本人からの何らかの訴えと感じることが多い。コミュニケーション不全のある人に発症リスクが高いのは頷けるし、表出コミュニケーションができていたらチャレンジング行動を予防できるのではないか?


①について

・事業所と家庭の連携については、事業所が家庭に介入することが、事業として規定されていないこと、そこに事業費がつかないので、構造的に難しい面があるのではないかと思われる

・事業所によっては、所内で保護者会を組織して、横の繋がりを作ったり、専門家によるアドバイスを受けるような仕組みを作っている。幼児の通園施設でも、そのような会を組織しているが、先輩保護者の体験談を聞く会が一番の人気になっている。

・まずは、家庭訪問して家庭の実態を見る、一緒に地域に出かけて移動支援の難しさについて実感してみる、事業所間の相互訪問を通じて、お互いの立場の違いなどを実感できるのではないか

・困難事例については、関係者会議を開いて、意見の統一を図る


②について

・引継ぎが重要で、視覚的スケジュールなど実際の支援の手だてがあるとわかりやすい

・言葉や文書だけでは、不十分。実際の支援の様子を見に来てもらう、動画を活用する


③について

・幼児期の通園施設で見ていて、やはり感覚が過敏な人が大きくなってチャレンジング行動を発症する人が多い。さらに環境によって悪化することを実感する

・何人か幼児期から成人期までの成長を見ていると、まず重度の知的障害の方ほど、感覚的な過敏性が高い人、こだわりが強すぎる人というのが、成長とともにチャレンジング行動を発症させている

・2,3歳ではあまり症状が出てない子も、5,6歳で、過敏性やこだわりを強める子もいる

・幼児期、学童期は受け身で大人しい子どもが思春期になってチャレンジング行動を発症する例もみられる。元々、大人しいからということで見過ごしにされ、苦手なかかわりを積み重ねたいった結果として発症するのではないか

・思春期のせいといわれるが、実態としては、男児の場合、二次性徴による攻撃性の高まりなどが関係しているだろうし、女児の場合、生理不順などで痛みが激しいなどが要因で悪化してしまう例がある。思春期までに、スケジュールや表出コミュニケーションなど標準的な支援を確立しておくことが大事。また発散するための活動を習慣化しておくことも大事で、その一つが運動である。易興奮性の人は、カムダウンなどリラクゼーションのための活動が重要


④について

・保育園を訪問した例として、他児を叩く攻撃行動をする子どもの相談を受けたが、保育士はなぜ叩くのかわからないという話があった。その時に教室の他の子どもが「〇〇ちゃんが△△くんの玩具を取ったからからだよ」と教えてくれた。もし玩具を取られた子どもが「〇〇ちゃんに玩具を取られた」と訴えることができたら、コミュニケーションで伝えることができればチャレンジング行動を発症することはないだろうに

・身体障害の施設で働いている職員の方は、皮膚をむしる自傷行動をしている人に対して、自傷とは捉えず、不快感の訴えだろうと捉えているとのこと

・言葉でのコミュニケーションの不全は、チャレンジング行動の発症リスクを高めるのは確かだと思う。では具体的にどうするかとなると少々難しい。PECSなど絵カードを使った代替コミュニケーションに指導が有効ではあるが、多くの人は、絵カードやタブレットなど手だてがあればいいと勘違いしている

・知的障害で重度の人ほど、その手立ての使い方を丁寧に単純なものから複雑なものへ順番を追って教えてあげるプロセスが大事

・また複雑な場面や状況を伝えるのも困難である。「〇〇ちゃんに玩具を取られた」というのもそうだし、身体内の生理的な異常や変化を伝えるのも難しい。そこで本人の実際の問題解決が図れるように単純化したコミュニケーションを教える。たとえば「〇〇ちゃんに玩具を取られた」と訴える代わりに、保育士に「ヘルプ」カードを渡して問題解決を図ってもらう、「頭が痛い」「歯が痛い」と伝える代わりに痛み止めの薬を要求して痛みを緩和するなどである。


疫学というテーマからは、はずれてしまったが現場で困っていることについてデスカッションできたらと思います。






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