「LINEで病欠の連絡を取る」中邑賢龍氏の講演 4月3日北九州市リバーウォーク芸術劇場
先日は、桜が満開の小倉城そばのリバーウォークの芸術劇場で、北九州市発達障害者支援センター主催の中邑賢龍氏の講演会があったので行ってきました。中邑氏は、東京大学の発達障害児を対象にした異才発掘プロジェクト「ROCKET」で有名な先生です。とは言っても、「ROCKET」がだんだん保護者の間でステイタス化していったので、それを止めて、今は「LEARN」という活動にシフトしているそうです。
中邑氏は、発達障害という言葉が嫌いで、ユニークな子どもという言い方をされます。そういう子どものためにユニークな取り組みをして、それを発信して世の中を変えたいと考えています。また、そのような取り組みをしても、短期的にはどう変わっていくかはわからない。だから学会発表もしないし、論文も書かないとおっしゃいます。確かに教育の効果は、10年、20年という長いスパンで捉えないといけないですが、長期にフォローアップして研究の成果として出すことは世の中を変えるインパクトがあると個人的には思います。欧米では、長期のフォローアップ研究や大規模な調査研究が行われていますが、日本はそれが少ないと感じます。
中邑氏の発言はとてもラディカルで魅力的なことをおっしゃいます。視力の悪い人は、眼鏡をかけることで矯正視力が認めれているのに、スマホを使った矯正知能は認められないのか?スマホを使った入試ではダメなのか?病欠を伝えるのにLINEを送るだけでいいじゃないか?電話しないといけないのか?入試に英語はいる?将来は英語ができる人と協力すれば良くない?それらは適応できない人に非を負わせる発想で、受けれる社会の側にストレスを与えたりある種の文化を強要する問題があるのではないか?制度や組織を変えるべきではないか?学校のカリキュラムも、昔ながらの活動が残っていて、ゲーム学科があってもいいじゃないか?とおっしゃいます。
一方、学校に行けなくなった子どもが行く、フリースクールがありますが、勉強したくないからとゲームばかりで、読み書きを教えないのは問題だと言います。
WHOの国際障害分類に関して障害の階層モデルの説明はとても分かりやすかったです。その階層モデルでは、impairment(機能形態障害)-disability(能力障害)-handicap(社会的不利)と分かれます。たとえば、脳のどこかに損傷が生じるのが機能形態障害。それによって発語ができないのが、の能力障害。それにより会社をクビになるのが社会的不利です。そして従来だと、それを治そうとする方、つまり医療の方に重点が行っていました。
脳科学を妄信すべきではない。専門家の評価を金科玉条のように信じてはいけない。心理テストでなくても、日常の行動観察でわかることはいっぱいある。たとえば、漢字テストをするのに何分かかっているか、15分を1,2時間かけてやっていないかでもわかることはあると。
しかし、最近はこのモデルに当てはまらない問題も出てきています。たとえば、顔にあざがあるという機能形態障害があることで人に避けられる社会的不利が生じる、機能形態障害や能力障害がないのに、なんらかの差別という社会的不利が生じている。機能形態障害はよくわからないけど読み書きが難しい能力障害が生じているなど。
社会の産業構造が変わることで生じる障害もあります。今は第3次産業が増大しホワイトカラーが求められています。そこではコミュニケーションや読み書きが高度に求められる。そして企業や集団、組織に合わせて個人を変えないといけないけど、これからは個人に合わせて企業や働き方を変えないといけないと中邑氏はおっしゃいます。
認知に障害のある人のためには、様々な身の回りにあるテクノロジー(アルテク)を使えばいいじゃないか。社会の側の抵抗は、ゲーム中毒になる、悪いことをするのではないか(試験の不正など)というもの。中邑氏は起きたら対策を考えればという姿勢です。具体的には、オンラインティーチャーという職種を提言されています。
肢体不自由、聴覚、視覚、知的、発達障害に共通する困難は何か?→メモすること。でも録音すればいいじゃない?
障害のある人への安易な社会の動きにも警笛を鳴らします。合理的配慮は、マイノリティがマジョリティの社会に入るための手続きではないか?たとえば、熱で会社を休むことを伝える場合に、LINEでもOKにするためには、会社の意識改革が必要だし、何か本来の目的かということの吟味が必要。休む場合に、社会性を求めることが大事?いえ無断欠勤を避けることで本人の社会的不利益を被らないようにすること。
ではGAFA、IT全盛の時代に、どういう教育が必要か?について実践されていることを紹介してくださいました。まず、今の学校や社会の文化を変えないといけない。みんな仲良く、過度な受験勉強、無駄の排除、過度な規格化、過度の情報提供といったものを排除することを説かれていました。中邑氏は、様々な業界人との交流をもっていらして、料理人の土井氏とのエピソードを紹介してくださいました。「僕は同じ料理は作れない。それは素材がいつも違うから。同じものを作れるのは、野菜などを全て管理して作られている」
中邑氏の提言は、「人間力を磨くことだ!」と力強くおっしゃっていました。便利なものを排除し、正解のない不便なものや状況を受け入れ、その環境の中で創意工夫すること。LEARNプロジェクトの動画でその活動を見せてくださいました。スマホなどの便利な道具を預かり、様々な制約の中でミッションを出し、子どもたちに遂行してもらう。とてもシンプルだけど、今の子どもたちが普段経験させてもらえないようなことで楽しいだろうなと思いました。
まだまだ、中邑氏の推奨することは今の日本社会では、追いついていないことばかりですが、「その文化を変えるのは、私たち一人ひとりの行動です。まずはLINEで病欠の連絡をしてみましょう。」と話を締めくくられていました。
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