ドキュメンタリー映画「道草」雑感

 重度の知的障害と自閉症、行動障害のある方を自宅を離れて24時間の訪問介護で支援するドキュメンタリー映画の話題作の道草をはじめて小倉昭和館で観てきました。私たち自閉症の専門家の間では、構造化や視覚的支援を全く取り組んでいないということで批判を浴びている話題の映画でもあります。

 ドキュメンタリーなので日常の出来事が淡々と描かれているだけなのですが、なぜか最後のエンドロールまで引き込まれてしまいました。それから、私が20年前に大野城すばる園に行った時の情景に似ているなと。一方、いろいろと賛否があることも、よく理解できましたし、専門家としては、このまま世の中に広まっては誤解も生じると思うので、映画で取り上げられている支援について、評価できる点とそうでない点を整理してお伝えしたいと思います。


まず評価できる点、画期的と思える点としては、

1.重度知的障害、自閉症、行動障害の人の24時間訪問介護による支援の実現

 多くの人が、既存の制度や施設という箱ものの中で、どう支援していくかに苦慮しているわけですが、重度訪問介護という制度を使ってこのような生活ができることを証明したことは、この映画のメインテーマであり、本当に画期的なことだと思います。それを思いついて実践していることが、すごいと思います。


2.入所や在宅、GHなど他人と一緒でなく、一人暮らしの支援

 地域のアパートでの一人暮らしを支えるというのがキーポイントだと思いますが、他者の刺激が不穏を招く自閉症者にとっては、落ち着ける環境だと思います。同居している人の声や出す音など気にしなくていいですし、集団行動を強要されることもありません。ユウイチロウさんのような強度行動障害の人の居住や生活支援の可能性も示してくれたと思いました。 

 さまざまな施設で、強度行動障害の人を受け入れ支援の努力が重ねられていますが、グループホームに個室を併設することで、共有スペースでの他者からの刺激や接触を減らす取り組みや、生活介護や入所施設で個室のユニットを設置するなどの取り組みをしているところがあります。


3.支援者が、当事者と地域の仲介者として覚悟を持ってかかわっている

 声が出たり、行動が荒れて通行人とのトラブルなどもある中で、それに臆することなく地域支援や外出支援を行われているのはすごいことだと思います。これは代表の方が信念を持って取り組み、職員の方にもそれが徹底されているのではと思います。無理強いせず本人のペースを尊重し根気よくつきあっていましたし、構造化や視覚的支援を行わない、支援者が入れ替わりながら良くやっているなあと思います。何よりも、宍戸監督が「道草」というタイトルに込められたように、「こうしなきゃ」とか「早く」とか「帰るよ」と当事者を急かすのはではなく、ゆっくりとかかわってあげるという点は、改めて大事だと思います。

4.支援者が普通にかかわっている

 良い意味で(悪い意味でも)ナチュラルにかかわっているなあと思いました。上下関係や杓子定規な対応でなく、当事者とも家族とも自然なやり取りをされていました。外野で言われているほど声かけは、そう多くはないと思いますし、静かに見守ってあげているのではないでしょうか。私も含めて自閉症対応を自負している支援者でも、ビデオに撮ってみると意外に声かけをしているものです。多少、当事者に混乱は見られましたが、調子が悪いときはそっとしてあげていました。何よりも調子よく過ごしている時、当事者は楽しそうな表情を見せてくれていました。


専門的に改善できるのでは?と思える点

1.やっぱり構造化や視覚的支援を取り入れればより安定するだろうと思える点

 ヒロムさんの食事の提供で、目の前の食事を無理して食べているようで、トイレで戻すこともありますという報告がありました。これは、量の調整や意志表出の支援でなんとかならないかなと思いました。

 特にユウイチロウさんには、専門的な構造化や視覚的支援によるかかわりが必要と思いました。いくら構造化をしても、強度行動障害の人の症状がすぐに治まるわけではありませんし、何年もかかるケースや構造化でもうまくいかないケースももちろんあります。

 天候の影響で何日も外出できなくなって調子を崩し、結局入院を余儀なくされました。緊急で一時的に(今は制度的に短期しか使えませんが)病院を利用することも必要なケースはあります。退院後、久しぶりに外出できて笑顔も出ているのに、帰りに不穏になり窓を壊してしまった場面がありました。これは楽しいことが終わってしまうことへの不満から出たものかもしれません。そうであるならば、その日の予定であったり、先の見通しがもてるような工夫があったら、多少行動は緩和できるかもしれません。

 なぜ、構造化や視覚支援をしないのか?知らないのか?抵抗があるのか?など疑問は残ります。


2.支援者間での支援のばらつき

 リョースケさんやヒロムさんは、ナチュラルな関りで良い面もあるが、映画でも描かれているように突発的な他害や外出時の支援困難は出ています。これも、構造化されている施設や支援の中でも起こり得ることですが、だから必要ないとは言えないと思います。

 リョースケさんと支援者が、食事の提供でやり取りしているシーンがあり、微笑ましいやり取りに笑い声が漏れていました。そこで支援者が、厳しい支援者もいるし、それを許している支援者もいてバランスが取れているのではないかという発言がありました。もちろん、杓子定規に当事者のかたを締め付けるのは良くないのですが、長期的に健康の問題が起こった時にどうするのか?支援者間でバラバラの対応のゆえに当事者が戸惑ったり混乱することが起きないか?という不安はありました。

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(同) ABC研究所は、自閉症スペクトラム障害 (ASD) に関する支援法について普及や啓発を行うことを使命にしています。自閉症支援は、応用行動分析 (ABA) とTEACCHプログラムに基づいた科学的方法論を基にしています。ABAは、自閉スペクトラム症をはじめとする発達障害の支援についてアメリカ連邦公衆衛生局によって科学的に効果が確認されている方法論として推奨されています。TEACCHは米国ノースカロライナ大学と州政府が中心となって州全体で取り組んでいる自閉症児者の包括的な支援制度で、そこで開発された構造化や視覚的支援などの方法論は世界的な自閉症支援の標準となっています。ABC研究所は、その使命を果たすために、自閉症スペクトラムの支援法に関する研修・セミナー、施設・学校でのコンサルテーション、コミュニケーションや学習教材の研究開発、個別の療育や相談を行っています。

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